パリ15区、メトロ、コンヴァンションで降りて地上に上がると、通りに面して両側にずらりとマルシェの店が並ぶ。火・木・日、特に日曜は狭い通りをすれ違うのが大変なくらい混み合う。
快晴の下、途中の並木には満開のマロニエ、紫のジャカランダ(キリモドキ)が咲き誇っている。
八百屋、肉屋、魚屋、チーズ屋、スパイス屋、花屋、洋服屋、雑貨屋など入り混じり、それぞれに特徴があって見ているだけでも面白い。いざ買おうと店を決めるのが大変。

この頃はショッピングカートを引くのをやめてリュックを背負っていくことにしている。混み合う中、カートを引いていると邪魔になり、店選び、品選びに差し障るからだ。
マルシェの端から端まで歩いて品定めをしたあと、結局いつものお気に入りに並ぶ。畑からそのまま運んできたのだろう、泥だらけの野菜を無造作に並べている八百屋さん。家族3人で運営、行列ができていて常連客が多い。テキパキ奥さん、にこやか娘さん、シャイで親切お父さん。
対面量り売りのマルシェ、客に「どれくらい?」と聞いてくるので、適量を告げると小さな薄茶色の紙袋に入れて量ってくれる。量り終えたものから次々にショッピングバッグやリュックに放り込む。欲しいものを全部買い終わったら「それで全てよ」と言わないといつまでも「それから?」「次は?」と聞いてくる。

野菜を入れてくれる薄茶色の紙袋は買えば買うほど枚数が増え、持ち帰ると台所に溜まる。時々見かけるのは、その袋をまとめて次回お店の人に渡す光景。一度使った紙袋に再び野菜を入れてもらう。このようなところにもエコロジーの精神が生きている。
黒板の表示板を見ると、「MIZUNA」とあって、茎の先に菜の花のような黄色い花がたくさん咲いている。思わず、「日本の水菜?」と聞くと、白髪のお父さんがにっこりして「そうだよ」。
さっそく購入、お父さんが茎からむしり取った葉に花も添え、紙袋に入れて量りながら「サラダにすると美味しいよ」。ちょっと育ちすぎとも感じるけれど、野性味に惹かれてあれもこれも買ったら、紫色の花を咲かせたシブレットを一摑みおまけしてくれた。
帰りがけ、アラブ系の親子がスズランの小さな花束を路上で売っていた。

今日は5月1日、メーデーの日は「スズランの日」でもある。鈴の形をしたスズラン(フランス語ではミュゲ)は春の象徴。親しい人や家族の幸運を祈ってスズランを贈る習慣があり、スズラン売りを街のあちこちで見かける。
この日だけは、フランス中、誰でも自由にスズランの花を売ってもいいという法律があるのだそう。子供たちがお小遣い稼ぎのために立っていたり、ボランティア団体が資金集めのために販売したり。
笑みを浮かべた親子からスズランを買い求めた。小さな花束、1ユーロ。朝早く近郊の森に行き、野生のスズランを採取して来たのかもしれない。花は小さいけれど香りがいい。
家に帰ったら、おまけにもらったシブレットの紫の花とスズランを一緒に花瓶に挿してみよう。
ちなみに、メーデーとスズランが結びつき、デモをする人のボタンホールにスズランの花を飾るようになったのだとか。