
農場の作物をそのまま運んで、パリの路上にぶちまけたような青空市の八百屋。土と太陽の匂いに満ちている。ノルマンディの畑で育った夏野菜や果物の数々。色とりどり、形は大小さまざま、自由で奔放。
もぎたて野菜は生で、茹でるだけで、そして海の養分を含んだゲランドの塩をふりかけるだけで美味しい。包丁を入れた瞬間に立ちのぼる匂い、咀嚼し飲み込むときに鼻腔を通りぬける香り‥‥体の細胞が息づいて、むくむくと目を覚ます。眠っていた記憶までも呼び起こす。
信州の山や森に囲まれて育った幼い頃、畑の野菜は確かに同じ香りがした。陽を浴びた土の匂い、風のそよぎも懐かしい。パリの北方、酪農と農業のノルマンディ地方、信州の気候・風土と似たところがあり収穫する作物も似ている。

パリの食卓で幼い頃の食卓がよみがえり不思議な気持ちにとらわれる。どちらにも、自然の恵みを存分にとり込んで自由に育ち、力みなぎる野菜があった。そしてそれをいただくことの充足感。
緑とクリーム色2色のさやいんげんを塩茹でし、パスタと合わせオリーブオイルで和えてタイムの葉を散らす。簡単な夏の昼食。茹で上がったさやいんげんは色鮮やかでほっこり柔らかく甘い。緑よりクリーム色の方が優しい味。素材の勢いを感じる。



