メトロをラマルク・コランクールで降り、北斜面から丘の上へ向かう。
駅出入り口自体が丘の斜面に穿たれた穴のよう。階段、キオスク、商店、カフェなどの混在した光景が、またなんとも絵になる。
駅から右へ。ラマルク街とコランクール街がゆったり上下からつぶしたX字で交わるところは、3本の道の交叉点になっている。南北に横切るソル街を右折すると、階段のある坂道が丘の上へとつづいている。
右側に連らなる石塀はサン・ヴァンサン墓地。こぢんまりとした墓地には、画家ユトリロ、作家マルセル・エイメ、映画監督マルセル・カルネたちが眠る。墓地を訪ねるなら出入り口はメトロの駅近く、コランクール街から。
やがて左手に見えてくるのが伝説的なキャバレ、ラパン・アジル。ピカソとその仲間たちが若く貧乏だった頃出入りしたという安酒場。今でもシャンソニエとして夜ごと営業している。

払えぬ飲み代の代わりにピカソが置いていったという絵などが、さりげなく壁に架かっている(現在掲げられているのは複製だから、ご安心を)。観光客相手の営業ではあるけれど、20世紀初頭の雰囲気を味わえる。懐かしいシャンソンも悪くない。
サン・ヴァンサン街を越えた斜面には小さな葡萄畑が残っていて、このあたりの光景はかつての丘の表情を今に伝える貴重なものだ。パリ市所有18区の管理で、秋には「収穫祭」で賑わう。中世風装束のパレードに住民たちの民族衣装が加わり、なかなかの見もの。
収穫された葡萄は区役所地下のカーヴで醸成され、その名もル・クロ・モンマルトル。年間生産量1000本前後という稀少価値のワインだ。味は今イチという声を耳にするが、実際に口に含む機会は今のところなく、実際に飲んだという人の存在も知らない。
葡萄畑を登りきった左手、コルト街を入ってすぐのところにモンマルトル博物館。ルノワール、ドガ、ロートレックなどのモデルとして、また自身も画家であったシュザンヌ・ヴァラドンが息子のユトリロと暮らしていた建物を含んでいる。
ソル街の坂道をさらに登れば、丘のいただきの繁華街ノルヴァン街との交叉点にいたる。