カルティエ・ラタン、雨宿り

パリ5区カルティエ・ラタン、サント・ジュヌヴィエーヴの丘の上パンテオン近くに用事があった帰り、久しぶりにセーヌ川の方へ歩いてみようと思い立つ。

カルディナル・ルモワンヌ通りのなだらかな坂道を下る。まっすぐ歩いて行けば自然にセーヌ川に突き当たり、トゥルネル橋を渡ればサン・ルイ島。

ゆっくり歩いても15分ほどの道、小雨が降ったり止んだり携帯傘をさしたり畳んだり。5月だというのに気温は上がらず空模様も不安定。

セーヌ河岸にたどり着いた途端、突然土砂降りに。前途を阻まれ、咄嗟に店先に張り出したシェードに駆け込む。通りがかりの何人かが身を寄せ、放心したように雨空を見上げた。

ふと振り向くと鴨料理のトゥール・ダルジャンが経営するパン屋だった。確か以前にはなかった。通りを隔てた向かいがレストラン。洒落た張り出しの入り口の下にも雨宿りの人たちがへばりついている。

止まない雨、足元から体が冷えて来た。時計を見れば、すでに夕方6時過ぎ。

目の前の橋脚にパリの守護聖女、ジュヌヴィエーヴの彫像が尖塔のように鼠色の空を突き刺して立っている。渡ればサン・ルイ島……今日は諦めよう。

サン・ジェルマン大通りに戻り、カフェに飛び込む。カフェ・クレーム。体が冷え切っていて暖かなものが欲しかった。窓越しに通りの風景を眺める。次第に雨はやんできた。店内では地元のおじさんたちが立ち飲みカウンターで大統領選談義。

店を出たら、自然とパン屋に足が向かう。バゲット・トラディシオンとライ麦パンを購入。トゥール・ダルジャン(銀の塔の意)に鴨の図柄の紙袋、抱えて歩くだけで香ばしい香りが鼻を掠める。