和風ペペロンチーノ:レシピのつもり

何故か、目の前に置かれたものをただ食い、飲むだけの存在と見なされがちだ。よほど生活能力の稀薄なバカ殿風雰囲気を漂わせているのだろう。

‥‥食材の買い出しもすれば、狭い厨房でごそごそ料理もする。もっとも気が向けばの話で、レパートリーはきわめて少ない。数少ないレパートリーのうち、オリジナルなもので簡単ながら美味い(と主観的には思う)和風ペペロンチーノを紹介する。

今さらどうでもいいのだが、少しぼんやりしていて不器用なだけだと、いくらかなりと誤解を解いておきたい。逆効果になるだけの話かもしれないが。

スパゲティ、にんにく、唐辛子、オイル、これで勝負。しかし奥は深い(と感じる)。

おこがましくも「和風」を名乗るのは土鍋を用い、七味唐辛子を使うから。土鍋だから「和」というのはいささか牽強付会な気もするけれど、七味唐辛子は「和」の誇る繊細にして大胆なスパイスだ。辛味と香りを存分に楽しみたい。

その他、冷蔵庫かどこかの棚にケーパースとかアンチョビ、甘くないピクルスかギリシア風のオリーブでもあれば利用しない手はない。もちろん京風漬物でも田舎風たくあんでも柚子胡椒でもいい。

要は水けのない塩味で、にんにくと唐辛子の風味を殺さず引き立て、生かすものならオーケー。適宜利用しよう。なければなくても構わない、そのときはあくまでシンプルを極める姿勢を貫こう。

スパゲティはイタリア製のもの、デュラム小麦のセモリナ、食材の質として、ここだけはちょっと譲れない。太さ1.6ミリ前後のものが扱いやすい。昼食のメインにするつもりなら、一人分100グラム見当といったところか。

にんにくをみじん切りに。3人分を作ると想定して、大きな物なら半分くらい、小さい物ならひとつ丸ごと。乾燥しているかどうかでも違うし好みによるが、少し多過ぎるかなと思うくらいでまず間違いない。

みじん切りとは別に薄切りにしたものも少々。すべてフライパンに載せたら、たっぷりのオイルを注ぐようにしてから火をつける。

くれぐれも油を熱してからにんにくを入れぬこと。これではすぐに焦げてしまう。にんにくは激しい自己主張を持ちながら、デリケートでもあるのだ。

オリーブオイルを用いるのが常道ではあるけれど、胡麻油というのもおもしろい。和風と名乗るからにはこちらの方がふさわしいかもしれない。胡麻油は上品な高級品より、普及品の方が胡麻独特のにおいは強い。これも好み次第。両方を適宜という手もある。気分次第で。

弱火で優しく見守っていると、次第にキツネ色に色づく。この香りだけで、調理台に立つ喜びを覚える。にんにくをへらでさらに押しつぶすようにしてもいい。たっぷりめのオイルににんにくの香りを染みこませるつもりで。

台所にころがっていた引き立て役を利用するなら、それもみじん切りに。ただし出しゃばらぬ程度の量に。あくまで引き立て役に徹していただく。

かりかりになった薄切りのにんにくを引き上げた後、フライパンに残ったみじん切りのにんにくと混ぜ合わせ、熱が通ったところで火を消す。

大鍋にたっぷりの水を沸騰させ、沸騰したら海水の濃さになる程度に粗塩を。強火のままスパゲティを放り込み、時折彼らを泳ぎまわらせるつもりで、菜箸などでつまんだり搔きまわしたり様子をみてやる。

ここで一番大切なのは茹で時間。スパゲティの箱や袋に表示してある時間を当てにしてはならない。天気予報より当てにならない。表示時間が8分なら6分、7分なら5分、2分は早めからスタンバイ、あとで混ぜ合わせる時間も考え、芯の残っている程度で引き上げよう。

土鍋は、レードル一杯分程度のスパゲティ茹で汁を消えそうなくらいの弱火にかけておき、引き上げたスパゲティとフライパンのにんにく、さらに七味唐辛子を加えて手早く混ぜる。

山椒の香りの豊かな京風のものから、唐辛子の味の立った長野善光寺系から、お好み次第で。個人的には江戸薬研堀の中辛を好む。麻の実、陳皮、胡麻の配分がいい。祭りの縁日に出る露店にも美味いものがある。

オイルが足りないようなら適宜調整。さっと馴染ませたら薄切りのにんにくを上から散らし、土鍋ごとどどーんと食卓へ。それぞれ土鍋から銘々皿に掬って食す。

気が向かれたら、お試しあれ。

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